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スタートアップ企業が「創業1年目」にやるべきことは?仲間集めのコツ、VCを回る必要性...【先輩起業家が「全部」明かします】

2023-11-02
大林尚朝(Another works代表取締役)
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大林尚朝(Another works代表取締役)

志を抱いてスタートアップ企業を設立したはいいけれど...。新米起業家はどう動けば良いのか。

創業初期は泥臭いことだらけ。だから、本当に重要な情報こそ表に出てこない。金銭だけでなくキャリア面・スキル面などでも報酬を得られる「複業」のマッチングプラットフォームを運営するAnother works大林尚朝(なおとも)・代表取締役はそう指摘します。

前回は大林さんに起業の仕方やタイミングなどについて語って頂きました。今回のテーマは「起業1年目の過ごし方」です。

プロダクト開発、採用、投資家回り、ピッチイベント、交流会...起業家の前には多くの選択肢が広がっています。

絶対的な正解はないかもしれませんが、大林さんの行動の軌跡は一つの参考事例になるはず。創業初期にありがちな失敗談も、明かしてもらいました。

仲間集めの視点はスキルよりも「一晩過ごせるか」

起業して最初の1年間は死ぬほど働いていました。もう、時間を忘れていました。相当楽しく、とにかく辛く、一番戻りたくない時期でもあります。

創業初期で一番大切なことは仲間集めだと僕は思っています。

プロダクトを作るのであればCTO(最高技術責任者)。まずはCTOをどう確保するかでその後のレバレッジが変わってくる。出会うのはもちろん難しい。ただ圧倒的に行動すれば出会えるのも間違いありません。僕は昔の友達や知り合いに片っ端から連絡して「エンジニアはいないか」と聞きまくりました。

CTOとの出会いでは、スキルよりも馬が合うかどうかを重視していました。スキルは後天的なものですが、性格や価値観は変えられないからです。

Googleの採用面接に「エアポートテスト」というものが存在するのはご存知でしょうか。候補者と一緒に空港に行ったものの乗るはずの便が欠航になり、一晩一緒に空港で過ごさないといけないとする。その時にずっと話していられるか、スマホを見るなどして各々時間を潰してしまうか。

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僕は、今のCTOとなら一晩中喋っている自信があります。それくらい、忖度なしで会話出来るかどうかは大事です。僕はCTOとの共同創業だったからプロダクトの権限を全部彼に渡して、創業初期は営業・仲間集め・お金集めに専念出来ました。

次に「自分たち経営陣に持っていないもの」を洗い出しました。

僕は営業力に自信があり、(創業初期は)全部自分で営業すると決めていたためセールス人材は採用しませんでした。足りなかったのは管理部門。経理・財務・総務が僕たちは本当に何も出来なかった(苦笑)。だから、資金調達をしたらまずそこを取ろうと決めました。

エンジニアも、CTOがいるとはいえPM(プロジェクトマネージャー)は必要ですし、コードを書いてくれる正社員も欲しい。このように、あらかじめ10人〜20人規模の未来の組織図を作り、資金調達したらそこを埋めに行く、という戦略をとっていました。調達前から「どのポジションの優先度が高いか」は経営陣で共有し、常にアンテナを張り、当てはまる候補者がいたらとにかく会いに行っていました。

人間関係の賞味期限は和菓子並み

起業家の相談を受けるなかで、一番多いのが人に関する悩みです。信頼していた共同創業者が抜けたとか、他社に行って裏切られたと感じるとか…。メンタルをやられてしまう起業家があまりにも多すぎる。

メンタルケアは非常に大事ですが、答えのない問題。僕もかなり悩んでいます。

僕は、人間関係は後ろ倒しせずすぐ話すように徹底しています。人間関係には全部、賞味期限がついています。時間が経つほどに悪化していく。しかもそのスピードはめちゃくちゃ早い。和菓子くらい短いと思っています。

(良くない兆候を)察知したら即、動く。自分の耳に入れるスピードと頻度をどれだけ高められるかが大事です。創業初期は1on1(1対1の対話)を良くしていました。「こういうふうに見えるんだけど、何かあった?」という感じです。

VCを回るタイミングは?創業初期はユーザー重視

創業初期はVCに会ってピッチをするということは、ほぼしませんでした。メンターが紹介してくれたVCに会いましたが、それ以外はリソースを割かないと決めていました。

僕は、経営者に大切なのは「軸」だと思っています。それは自分自身への自信や頑固さ、それに柔軟性とのバランスで構成されるものですが、VCを20社、30社と回ると、20から30の意見が寄せられる。それを鵜呑みにして、振り回されるのが怖かった。

時間があるのであれば、ユーザーに500人でも1,000人でも会うべきなのです。答えはそこにしか落ちていない。答えを持っているのはユーザーです。経営陣全員で、お金を払ってでもユーザーに会いに行っていました。そこで得られたものの集合体がUI・UXになるのです。

もちろんVCはありがたい存在です。僕は3回目の資金調達のタイミングでVCを回って話を聞きました。

中期経営計画や過去のトラクションを赤裸々に明かすなかで、「こういうSaaS企業はこうしたから伸びた」とか、「上場時の株価をこうしたいなら、これくらいの利益が必要」など、リアルな市況感を聞けてかなり参考になった。VCが持っているのは資金、ネットワーク、そして成功と失敗のモデルなのです。

創業初期の失敗 新規事業は楽しいけれど...

僕が創業初期にした失敗は、新規事業を作りたくなってしまったことです。「複業クラウド」に集中すべきでした。

初期にユーザーの声を聞くのは正しい。けれど、聞けば聞くほど「こういうサービスがあったらいい」といった要望がたくさん上がってくるわけです。

僕は複業マッチングだけでなく、複業解禁者を増やすべきだと思って、複業解禁ツールを大手企業向けに売ろうと思った。結局、全く売れませんでした。アジャイル(臨機応変的)に開発したプロダクトなのですが、すぐに止めました。

ほかにも、個人のスキルを野球ゲームのように可視化・数値化する機能を作ってプロダクトに入れたこともありました。こちらも全然使われなかった。

(失敗体験に)共通しているのは「あったらいいな」レベルのサービスだったことです。「あったらいいな」は創業初期は絶対に作らない方がいい。「ないとマズい」ものに集中すべきでした。

僕は早い時期にこの失敗をしました。ある程度お金も溶かしてしまいましたが、経営陣でこれを勉強代だと認識して、選択と集中でマストなものだけを作る方向に舵を切りました。新規事業を作っている時間はやっぱり楽しいんです。そこを食い止めないといけません。

起業家の知恵 集合知として発信を

ここまで、起業について自分の体験をシェアしてみました。

国のスタートアップ5か年計画も発表され、スタートアップが注目されていること自体は嬉しいです。先輩起業家はたくさん情報を持っています。それらが集合知としてもっと発信されるようになればいい。

SNSなど、繋がるツールは増えていますから、起業家が起業家にどんどんアプローチしていけばいい。難しければ、もちろん僕に聞いてもらっても構いません。

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